さまざまな工場で24時間稼働している作業ロボットの多くに、空圧によって動く装置が使われています。
こういった装置を確実に効率よく作動させるためには、空圧回路の設計が重要です。
空圧回路設計のポイントと注意点、空圧回路設計と電気制御設計との関係についてご紹介します。
空圧装置と空圧回路設計
空圧回路とはどのようなもので、どのように設計されるのでしょうか。再認識のため簡単にまとめます。
圧縮空気によって動く装置
圧縮空気を作り出す機器や、圧縮空気によって動く機器を総称して空圧機器と呼びます。
これらの空圧機器を組み合わせることによって作られた装置が空圧装置です。
また、空圧装置において空気の流れ方、使われ方を表したものは空圧回路と呼ばれます。
空圧装置、空圧回路は制御が容易で作動速度も出せるため、FA(ファクトリーオートメーション)を支える重要な要素のひとつとして、あらゆる産業の工場で活躍しています。
空圧装置における空気の通り道を考える
空圧装置は素早い動作を簡単に制御することを得意としていますが、
不具合なく想定した通りの動作をするためには、空気の通り道を考えることが重要となります。
この空気の通り道や通る順番、使う機器の選定や設置方法を考えるのが空圧回路の設計です。
特に、複雑な動きを何万回も繰り返すロボットでは、空圧回路設計は欠かせません。
想定した通りの作動をするよう設計するのはもちろんのこと、現場での調整や保全・修理まで考えた空圧回路設計が求められます。
実際の空圧回路設計
では実際に、空圧装置にはどのような機器があり、それらによってどのような空圧回路が構成されるのかを見てみましょう。
空圧回路を構成するもの
空圧回路には次のような空圧機器が使われます。
- 空気圧源
- 空気圧の供給を行うための圧縮空気発生装置です。主にエアーコンプレッサーが使われます。
- 清浄化機器
- 圧縮空気を清浄する装置です。エアーフィルターがこれに該当します。
- 圧力制御機器
- 空圧で作動する装置へ供給される、圧縮空気の圧力を制御します。エアーレギュレーター・リリーフバルブなどです。
- 方向制御機器
- 空気を送り込む方向を制御する機器です。電磁弁・方向切換弁などがあります。
- 流量制御機器
- アクチュエータに送り込まれる空気の流量を調整します。スピードコントローラーが該当します。
- エアー駆動アクチュエータ
- 空圧により駆動する摺動(しゅうどう)装置です。大小さまざまな形状のエアーシリンダーが使われています。
- 配管類
- 空気の通り道を形成する配管類には、鋼管・ホース・チューブ・継手があります。
- 補機類
- 空圧装置の利便性や環境性を向上させる補助の機器です。サイレンサー・ルブリケーター・圧力スイッチ・圧力センサーなどがあります。
エアー駆動アクチュエータ参考画像:SMC EPLAN Data Portal 掲載情報より
空圧回路の例
簡単な空圧回路の例としては次のような動きをするものがあります。
- エアーコンプレッサーで圧縮空気を発生
- エアーレギュレーターで送る最大圧力を調整
- ルブリケーターにより圧縮空気中に潤滑油を噴霧・混合
- 緊急時に空圧を開放するために安全スイッチを経由
- 電磁弁により空圧路のオープン・クローズを切り替え
- スピードコントローラーにより送る空圧の量を調整
- エアーシリンダーの伸長方向に空気を充填しエアーシリンダーが伸びる
- エアーシリンダーの圧縮方向に空気を充填しエアーシリンダーが縮む
- 空気は電磁弁へと戻りサイレンサーを通して開放される
空圧回路設計の特徴と考え方
空圧回路を設計するとき、空圧機器だけを考えればいいわけではありません。空圧回路設計には別分野の知識も必要であり、空圧回路独自のポイントや注意点もあります。
空圧回路と電気回路
今ではほとんどの空圧回路に電磁弁が使われています。
空圧回路の制御といえば電磁弁を使うのがもはや常識とされるほど、空圧回路は電気によって制御されているのです。
また、制御に必要となる入力信号も、リミットスイッチや圧力センサーなど電気機器によって作られます。
そのため、空圧回路の設計には電気制御の知識も求められます。 また、設計の際にはその後の運用についても考えなければなりません。
点検や修理におけるメンテナンス性、生産アイテム変更時の調整容易度など、現場の生産性を低下させない設計が重要です。
例えばエアーシリンダーによってワークを移動させる装置の動作は、エアーシリンダーの動き始めるタイミング・動く速さ・止まる位置・戻り始めるタイミング・戻る速さなど、さまざまな設定が必要です。
このとき、エアーレギュレーターやスピードコントローラーなどの空圧要素と、リミットスイッチ位置やタイマー設定などの電気要素が同時に絡んでくることとなります。
このように、制御・維持どちらに関しても空圧設計と電気要素は切り離せない関係にあります。空圧回路の設計者は電気と空圧の両側から考えなければなりません。
空圧回路設計のポイントと注意点
電気は光とほぼ同じ速さで流れるため、ひとつの工場内で使われるような電気回路では電気の速度を考えることはありません。
しかし電気回路と異なり、空圧回路では空気の流れる速度を考える必要があります。空気は配管類の中を流体として進み、エアーシリンダーに徐々に充填されて動かします。
また、空気には圧縮性があるため圧力が上がる速さ、下がる速さの計算も必要です。
空圧回路設計では、こういった速さについて考えながら設計しなければ、理想の動きを実現できません。
例えば、左右から同時にシリンダーを動かしワークを掴むような装置では、左右の配管を同じ長さ・同じ太さにするのがポイントです。
左右の配管が違う長さだと、空気が配管を通過しシリンダーに充填されるまでの時間が変わります。
これにより左右のシリンダーがバラバラに動いてしまうため、ワークを正確に掴むことが難しくなります。 また、使用する機器の選定にも注意が必要です。
電磁弁は2~5ポートのものが一般的で、ポート数・NC/NO・バルブ戻り方式など回路に求められる条件にあったものを選定しなければ、想定した動作を実現できず、コスト面でも非効率です。
エアーシリンダーには単動・複動があり、単動は空圧により一方向に動かすことはできますが戻りはバネの力によって動きます。
これに対し、複動は双方向が空圧によって動く方式です。単動は電磁弁のポート数を減らせたり、戻り方向で挟まれ事故が起きたときにも比較的安全だったりといったメリットがあります。
しかし、排気孔から排出された空気によって粉塵が舞うため、クリーンルームでの使用に適しません。
また、引っ掛かりトラブルの可能性が高まるといったデメリットもあります。
これらのことから、エアーシリンダーは安全を十分に考慮することを前提として、複動式を使うのが基本です。
空圧回路設計はちょっとしたコツや知識で大きく動き方やコストが変わります。
確実な作動と高い生産性を考えるのと同時に、安全であることも重視した空圧回路の設計を心がけましょう。
電気で制御し空圧で動かす
空圧回路設計の特徴やポイント、電気回路設計との関連性についてご紹介しました。空圧装置は、一定の動きを何万回と繰り返す自動機やロボットにおいて、今やなくてはならないものとなっています。その安全性と確実性、精度と作業速度などを左右するのは空圧回路の設計であり、電気制御によって動くタイミングが決められます。空圧装置の作動において高効率を求めるためには、空圧回路設計と電気制御設計の両面から考える必要があります。
参考: