ハーネスの設計・製作において、ネイルボードは長年主役として活躍してきました。ネイルボードによる設計手法とその有用性、現代のニーズとの間で生まれている不適合性、ネイルボードに変わる新たな設計手法についてご紹介します。
現代では、多くの電気部品の製作工程が自動化されています。そんななかで、手作業が多く残る分野のひとつとしてハーネスの製作があります。なぜこの分野は自動化されにくいのでしょうか。
確かにハーネス製作は自動化が難しいといわれる分野ですが、実はこの手作業を中心とした考えは、設計段階から根付いているのです。その背景には、設計から製作までに使われる、ある道具が関係しています。 その道具とは、「ネイルボード」。
ネイルボードを使ったハーネス設計・製作では、実測を元にして盤上に1/1スケールの配線図を作り、その盤上の配線図に沿わせる形で電線を配置・結束してハーネスを作っていきます。
この設計と製作に使われる「盤」こそが、ネイルボードと呼ばれるものです。
ネイルボードは設計から製作までをひとつの盤上でこなすマルチツールであり、ハーネス設計・製作の現場では、現在も多く使われています。
ネイルボードの有用性こそが、ハーネス製作分野で手作業が多く残り、自動化が進まない理由のひとつといえるでしょう。
では、なぜハーネスの設計・製作においてネイルボードが使われるようになり、定着したのでしょうか。
建築物の電源配線を除くと、電気機器の配線において最も三次元的な要素が求められたのがハーネスでした。
平面的な分電盤や制御盤配線に比べ、コンパクトかつ効率よく機器を収める必要のある自動車や電化製品の内部の配線は、より立体的な取り回しが求められます。このように三次元的な要素が求められたことから、ハーネスの設計は実測による現物合わせの手法が定着したと考えられます。 さらに遡ると、コンピュータを使って設計を行う以前は、機器と機器をつなぐ配線経路を紐によって測る手法が取られていました。その紐を盤上に伸ばして設計を行っていたのが、ネイルボード設計の始まりです。
実測に基づいた寸法による設計で、確実性が高く、実際の配線経路が目に見えてわかりやすい利点がありました。また、実寸のお手本があるため、作業者に寸法や曲げる箇所がわかりやすい点も都合のいいことでした。 誰もが理解しやすく確実な方法であったため、長年変わらずに使われ続けてきたのです。
しかしこの方法では、ハーネスによって接続される機器の配置が決定してからでないと、採寸ができないというデメリットがあります。機器の配置変更によってゼロからやり直しになる可能性があるからです。また、同型のハーネスを大量生産する場合には有用ですが、少ロット生産には適していません。全体の作業量に対してネイルボード作成の占めるウェイトが大きくなってしまうためです。さらに複数の製造ラインで同時進行する場合においても、ネイルボードを複数設置する必要があり、スペースや工程リードタイムの問題が発生します。
機器の配置決定を待ってから電気部品設計に着手するこの手法は、高効率とはいえません。 近年はプロダクトが市場に出るまでのリードタイムが重視される時代です。かつ、ニーズの多様化に対応するため、少ロット生産へとシフトチェンジしている今、ネイルボードのメリットが活かされにくくなっている事情があります。
では、メリットが希薄化してきたネイルボード設計に変わるのは、どのような手法でしょうか。
それは、3D-CADによるハーネス設計です。 前述のとおり、もともと三次元での計測が必要だったことから、ネイルボードによる設計手法は編み出されました。これを仮想空間で再現しているのが3D-CADのハーネス設計です。
ハーネスの設計・製作におけるネイルボードを使った手法の特徴と、3D-CADを使った設計との違い、効果的な使い分けについて考えました。 長らく旧態依然とした手法が取られてきたハーネスの設計・製作は、今大きな変革期を迎えています。アナログによるわかりやすいネイルボードと、デジタルによるさまざまなメリットのある3D-CAD、どちらの有用性も上手に利用していくことで、生産性を一層高めていけるのではないでしょうか。
参考: